November 29, 2021

ヨルダンでは、ベイト・シッティへ行こう

3姉妹が祖母の古いレシピを使って、ヨルダンの首都アンマンに真の変化をもたらした方法

スークに足を踏み入れた途端、強烈な騒音が聞こえてきます。男声が不協和音を奏でながら、自分たちの売り物のおいしさをアピールしているのです。瑞々しいトマト、まるまるした茄子、ニンニクの球根、ヨルダンの首都アンマンでは、どの野菜にもそれぞれの「売り文句」があり、それが賑やかな市場の中で、砂利を敷き詰めた庭の交響曲のように、大音量のがらがら声で唱えられています。

スーク・エル・ホドラ(街の歴史的な青果市場)で、この喧騒の中を滑るように歩くマリア・ハッダードは、プロのシェフのような目で食材を鑑定しながら、地元の人のように無駄のない動きで移動します。

「ここに来るのが大好きなんです」と、マリアは自分のカバンの中にほうれん草を詰め、小声で話しかける売り子にお金を払いながら言いました。「どの品も新鮮で味が濃く、場所全体が生き生きとしているから」

36歳のマリアは、ここアンマンでユニークなビジネスを営んでいる3姉妹の次女です。彼女たちの店の名前「ベイト・シッティ」はアラビア語に(から)翻訳すると「祖母の家」という意味になります。2010年に最愛の祖母からこの家を相続した姉妹は、祖母の思い出を称えるために完璧なビジネスモデルを打ち出しました。 

「私たちが幼かった頃、祖母の家にアラブ料理を習いに通っていたんです」と、マリアは新鮮な食材の入った袋を抱えてスークから抜け出しながら言いました。「祖母が亡くなった時、私たちは祖母の家をゲストに開放することで、祖母の思い出を残したかったんです。私たちは、祖母から伝授された料理法を他の人たちに教えています。

しかしベイト・シッティ(「Bait City」と同じ発音)は、ヨルダン料理を教えるだけではありません。家父長制社会の大部分において、働く女性がいまだにタブー視されているこの国において、この店は女性に働く機会も提供しているのです。マリアと姉妹のディナとターニアは、何十人もの地元の女性たちを雇ってクラスを担当(教え)させ、彼女たちに家族を養うための収入とかけがえのない起業経験を与えています。受講した多くの女性が自分でケータリングビジネスを立ち上げ、姉妹もそれを積極的に奨励しています。

「女性たちをサポートし、自立の第一歩を味わってもらいたいのです」と、マリアは活気にあふれたジャバルアルウェイブデ近辺にある祖母の家に向かいながら語ってくれました。「彼女たち料理人は、たいてい口コミで奨められてベイト・シッティに来るのですが、大半が自分のやっていることを家族に知られたくないと考えています。しかし、自分でお金を稼ぎ、自分ひとりで生きていけると理解すると、自信が持てるようになるのです。来た時は臆病でも、ビジネスウーマンとして巣立っていくのです」

ベイト・シッティに到着すると、料理人のひとり、ウム・リーム・アマルという中年女性が待っていて、私たちを出迎えてくれました。今は家族は誰も住んでいませんが、壁には額装されたモノクロ写真の束が所狭しと飾られ、片隅には年代物のシンガー製ミシンが輝きを放っています。フレンチドアが開き、日差しの降り注ぐテラスでは、2匹の子猫がレモンの木の周りで追いかけっこをしています。 

ウム・リームが荷物を開けるのを手伝ってくれて、私たちは仕事に取りかかり、刻み、さいの目に切り、こね、形を整え、かき混ぜながら、ムタバル(中東のナスのディップ)、具だくさんファッロサラダ、そして新鮮なホブズ(アラビアパン)を調理します。次にメインのマクルーバを調理します。マクルーバは伝統的な農家のレシピで、鶏肉、米、野菜の炒め物、スパイスを鍋に入れて混ぜ、ひっくり返して提供します(「マクルーバ」は直訳すると「逆さま」という意味です)。

「皆さん、アラブ料理はフムス、ファラフェル、ケバブだけだと思っているけど、もっと色々あるのですよ」と、マリアは言います。「今日調理する料理は、ヨルダン人が家庭で食べている料理です」 

1時間のクッキング・セッションの間中、地元の有名人からヨルダン料理を美味しくする現地のスパイスまで、ありとあらゆることについておしゃべりしました。(料理では、ザアタル、スマックを含めたいくつかのスパイスや、一見強烈なオレンジブロッサムウォーターを使いました)私は、ウム・リームがある日の午後、家に向かう階段のそばを通りかかり、料理の匂いを嗅いで何を作っているのか尋ねたところ、偶然にベイト・シッティを発見したというエピソードを聞きました。また、イギリスのセレブ・シェフからヨルダン王室の皇族まで、またチリ、中国、オーストラリアといった遠方からの観光客まで、驚くほど幅広い顧客がこのクラスに参加したという話も聞きました。

最後に、アンマンを見下ろすテラスに座って午後遅くの素晴らしい日差しの中、私たちは労働の成果を味わいました。特にマクルーバはとても新鮮で、意志の力によって反転した栄光に支えられて形を保っているように見えました。屋外のオーブンから直接サーブされる熱々の平たいアラビアパンも忘れられないご馳走で、濃厚でクリーミーなムタバルに浸して食べるのは最高の歓びでした。

「20代でこのビジネスを始めた当初はたいへんでした。行政官庁に行く度に、泣きながら帰ってきたものです」と、子猫が残り物を狙っている中でマリアは言いました。「結局、母が私たちと一緒に来て、書類に署名してくれるまで動かないと5時間も粘ったのです」

「しかし現在、この国では働く女性たちの状況が本当に変わり始めていて、その大きな部分を担っているのがラーニア王妃であり、彼女はコミュニティの権利を支援するために多くのイニシアチブを導入しています。自分たちがそのプロセスを手助けする役割を果たせたことを嬉しく思っています」

紀元前5000年にさかのぼる中東の一般的な格言に、アンマンは温かい心を持った古都であるという格言があります。そして多くの点で、ベイト・シッティはそのもてなしの心が完璧な形で凝縮されているのです。 

「私たちのモットーは、料理で壁を取り払うことです」と、マリアは言います。「一緒に料理をしていると、自動的に相手と話し始め、気まずい雰囲気は消えてしまいます。ベイト・シッティで一番大切にしていることは、新しいレシピを覚えることではなく、人とのつながりを築くことなのです。多分、それがずっと祖母が私たちに教えてきたことだと思うのです」 

ベイト・シッティの料理教室は週7日開催され、料金は(カップル)2名1組につき70ドル、マンツーマンの料理レッスンは140ドルです。詳細や予約は、ウェブサイト(beitsitti.com)をご覧ください。